イノベーションを起こす手法の一つがスタートアップであり、それに期待してエンジェル、VC、そして企業から多くの資金がベンチャーに投下されている。しかし一つ一つのスタートアップの成功確率はかなり低いことは言うまでもない。どの時点からを「スタートアップ」とするか、あるいは「成功」・「失敗」と定義するかにもよるが、成功確率は数%から、せいぜい15%程度だろう。

 

ここ10年ほどだろうか、プロダクト開発や新規事業を成功に導く、科学的なメソドロジーが確立されつつあるようにも思える。リーンスタートアップやデザインシンキング、各種ソフトウェア開発・管理手法など、確かに20年前に比べると蓄積されてきたノウハウが体系化されつつある。ただ、それでもスタートアップの失敗は減らない。Fail Fast という考えは、プロダクト開発のレベルではその手法やノウハウが確立されつつあるが、スタートアップ「会社」というレベルでは相変わらず多くの失敗が繰り返されている状態だ。むしろシリコンバレーでは、資金調達環境がバブル気味な中で、失敗はより大きく、資金的にも人的にも社会的にも、非常に非効率な状態になっている。

 

All Turtles が着手するプロダクト・事業には、4つの結末があり得ると考えている。「失敗」、「自立」(IPO路線)、「売却」、そして「内部事業部化」、の4つ。その中で最大・最多であり、常に一番最初に挙げているのが「失敗」だ。我々の対外的な事業計画や紹介資料の中でも、この「失敗」を中核に位置付けているし、まるで失敗を創り出すビジネスだと説明しているようだ。もっとカッコイイ自己紹介の仕方もあると思うのだが、なぜそうするのか。

 

シリコンバレーでも、決して失敗は美しくはない。そこで、「失敗」を上手くやること、それこそが我々の最大の能力だと考えているからだ。というのも、スタートアップの失敗の多くはとても非効率で、しかも時には悲惨。シリコンバレーは失敗には寛容ではあるものの、それに携わった多くの人々には大きな時間的・金銭的・精神的な負担や損失が伴う。そこで All Turtles では、失敗を上手く、より早く判断・決断することによって、資金や時間の無駄遣いを最小限にとどめたいと考えた。そしてその方法として、従来のシリコンバレーの方法とは異なる手法を採用することにした。

 

シリコンバレーでの典型的な失敗とは、次のようなものだ。

 

例えば起業家がスタートアップを始め、プロダクト開発の為に3百万ドル(3億円強)調達できたとする。一旦会社を始めると、何としてでも存続させようとするのは日本でもシリコンバレーでも一緒。スタートアップは何とか存続しようとするので、開発が上手くいかなくても、テストの結果が思わしくなくても、獲得したお金を最後の1ドルまで使い切ることになる。たとえ最初の1百万ドルだけを使った結果、誰も喜ばない愚かなプロダクトだったと気付いたとしても、そのままお金を使い続けてしまう。実際にはつなぎや延長資金を投資家にお願いし、さらに多くのお金を使うこともあるでしょう。こうして、存続するために最初の資金とつなぎと合わせて4百万ドルを、いとも簡単に無駄にしてしまう。

 

ちなみにシリコンバレーの開発段階のスタートアップのコストの80%は福利厚生を含む人件費、10%はオフィス家賃。給料の30%近くが住居費に充てられていると仮定すると、なんとベンチャーの調達資金の30%は会社・個人の家賃関連に浪費している計算。完全にバブル化した不動産の高騰も含め、不動産業界が大儲けしているという構図だ。

 

さて、なぜ上記のような無駄が何度も何度も生み出されるかと言うと、それは「会社」を作って資金を集めるという方法に大きな原因がある。会社を作ったから。家族や友人知人に資金を一部提供してもらったから。事業計画を描いて投資家にコミットしたから。従業員を雇ったから。世間に注目されているから。VC側も、一度投資したベンチャーが途中で辞めて残ったお金を返すと言ってきても困るから。こういったことの心理的な影響は、経営者の判断を遅らせ、誤らせてしまう。

 

シリコンバレーのスタートアップの失敗は、資金面で非効率なだけではなく、時間的にも、感情的にも非効率だ。多くの才能ある人たちが、成功することのないプロジェクトで長年くすぶってしまう。Living dead で多くの無駄な時間を過ごす優秀なエンジニアやデザイナー。テクノロジー人材が足りないというのに、これでは本当にもったいない。

 

上手く、早く、安く「失敗」する方法はないだろうか。そこで参考になったのが、テクノロジーではなくエンタメ業界、Netflix や HBO、Amazon などの最新ハリウッド・スタジオ。つまりそれらは、プロジェクトごとに編成されるプロ達が多くのパイロットを効率的に創り、その中から少ない成功を選別するというモデルだ。失敗は避けられないが、失敗するならとにかく早く失敗すること。また、「会社」ではなく、プロダクトこそが重要。そういう考えに基づいたやり方だ。